083310 ランダム
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My belief

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霊洗堂(未完

古都ブルンネンシュティグ、
フランデル大陸の東部に位置する、大都市である。
この町には商人、冒険者、傭兵、観光者など
様々な各都市の人々が集まる。
そんな都市には、もちろん色々な店がある。
そのなかでも、古都の人間であっても
知る人は少ない謎の多い店・・・・


【霊洗堂】



【1】

「ふ~ん・・・・」
テンガロンハットをかぶった青年が、
古都の裏路地の掲示板で
人員募集の黒地に白の文字で書かれた張り紙を見ていた。
その張り紙の内容はこうだ。


―高LV鍵・高LV罠解除スキル所持者募集―
○日給5000G+臨時収入多数
○戦闘能力は問いません
○秘密が守れる方のみ
□以上の事を満たす志願者は
 ・・・(地図)・・・・
 まで、詳しい説明を致します。

お待ちしております、霊洗堂・ユウ



「日給は安めだなぁ・・・
 でも、臨時収入多数か・・・
 最近は戦闘能力の高いシーフばっかりで、
 補助専門は古都でも需要があんまないからなぁ・・・
 とりあえず、いってみるか。」
彼はそう呟くと、地図を頼りに店へ向かった。

10分後・・・・

「この路地を曲がると・・・お。」
そこは、両隣の家の屋根によって、
光がほとんど遮断された細い路地だった。
路地の奥には、古ぼけた木造の小さな2階建ての小屋があった。
その小屋に窓はなく、木製の扉だけがあった。
その扉の横に、薄暗い青い字で縦に霊洗堂と書かれた
木製の看板がおいてあった。
路地に光は入ってきていないはずなのに、
なぜか、その小屋だけが青白くぼんやりと
輝いているように見えた。
「うわ・・・薄気味悪りぃなぁ、ここ・・・」



【2】

ライレンが小屋の中に入ると、
カランカランと、扉の鈴が鳴った。
(彼は突然の鈴の音に驚いた。)
内部は外観よりもっと狭く感じられた。
両側の壁には薄く高い棚があり、
水晶、薬品、装飾品などが並べられていた。
正面には、カウンターがあり、
そこに、小さい黒フードをかぶった者が
寝息を立てながらうつ伏せで寝ていた。
扉の鈴の音が鳴ったというのに、
まったく起きる気配がない。
「あの~・・・もしも~し。」
彼がが呼びかけても、黒フードはマイペースに寝息を立て続けた。
すると、突然カウンターの向こうの右奥の扉が大きな音を立てて開き、
紫色マントを羽織り、長髪で華奢な体つきの異様に背の高い男が出てきた。
「いらっしゃいませ。」
紫マントの男はにっこりと微笑みながら落ち着いた口調で言った。
「おやおや・・・ユウ様、
 御客人のいらっしゃる時は起きないといけませんよ。」
彼は、まるで動く床に乗っているような滑らかな動きで
ユウという黒フードに近寄り、肩を軽く揺すった。
すると、さっきまでの寝息が止まった。
「ん・・・んん~・・・ねむ~~~い・・・・」
ライレンは黒フードから自分が想像していたのとは違う
少女らしい声が聞こえて、少し驚いた。
少し間があってから、少女は顔をあげた。
眠そうな黒目がちな瞳に、薄い灰色の髪。
寝起きは悪そうな、低血圧っぽい青白い顔だった。
「あ・・・いらっしゃいm・・・ふぁぁ・・・・」
彼女は欠伸をしながら言った。
「今日・・ふぁぁぁ・・・
 どういったごよぉうけんでふかぁぁ~・・・?」
彼女は完全に欠伸と会話の区別がついていない状態だ。


【3】


「ええっと、俺、
 掲示板のチラシ見て来たんスけど・・・」
「おお、そうでしたか!それはありがたい!
 どうぞ中へ。少々テストのようなものがありますので・・・」
「あ、はいッス。」
紫マントがスルスルとドアの向こうに行ったので、ライレンはカウンターの脇を通って、
続いて右奥の扉へと入っていった。
扉を開けると、少々古臭いリビングがあり、
この部屋の真ん中あたりの小さな丸テーブルの向こう側に紫マントが見えた。
「どうぞそこへ御掛けください。」
「失礼しまッス」
ライレンが座ったのを確認すると、
「申し遅れました。
 私、この霊洗堂事務兼経理を担当しておりますヴァイアと申します。」
ヴァイアは礼儀正しく礼をした。
「あ、よろしくッス!」
「では、早速で申し訳ございませんが、テストをさせていただきます。」
「あ、はいッス。どうすればいいッスか?」
「ハイタッチをお願いします。」
そういうとヴァイアは、右手につけていた白い手袋を取って、
ライレンの方に右手を伸ばした。
「へ?」ライレンはあっけにとられてしまった。
「あ、申し訳ありません。ハイタッチはご存知ではなかったのですね・・・」
ヴァイアは手を引っ込めた。
「いえ、あ、知ってるッス!」
「おお、それは良かった!ではお願いします」
彼は再度手を差し出し、満面の笑みでライレンを見ている。
「(ハイタッチテストなんて聞いたことねー!!!!!
  なんなんだ・・・このテスト・・・・
  でも、ココで拒否っても仕事ないし生活できないし・・・。
  もう、こうなりゃハイタッチでもボディタッチでもやってやらぁ!)」
ライレンは立ち上がり、思い切り手を振りかぶり、
ヴァイアの血色のよくない華奢な手に
「ハイターッチッ!!!」
思い切り交わされたハイタッチにも関わらず、
音がまったく出なかった。
いや、ライレンに聞こえなかったというのが正しい。









【4】

ヴァイアと手が触れた瞬間、
ライレンは、自身のあらゆるもの
―記憶、感覚、気力、体力、・・・命、すべて―
が自分の手の平に吸い寄せられ、
ヴァイアの手に吸い込まれるそうになるのを感じた。
手が触れたのは一瞬のはずなのに、ライレンにはその瞬間が
何分にも何時間にも感じられた。

「(・・・・吸い・・・・込ま・・・れ・・・・る・・・・・・・)」

そんな感覚がライレンの全身を巡りかけた時、ヴァイアとの手が離れた。
彼は手の平に吸い寄せられていたものが
あるべき場所へ戻っていくのを感じた。
足の力がふっと抜けて彼はよろけて、椅子の背に後頭部を強打した。
「あだっ!」
「あ!ライレンさん大丈夫ですか!?」
ヴァイアは急いで、白い手袋を着け直して駆け寄った。
「イテテ・・・はいぃ・・・」
後頭部をさすりながらライレンが返答した。
そこでライレンは見てしまった。
「・・・!? ヴァイアさん・・・浮いてる・・・?」
「あ、はい、そうですね。
 あまり気になさらないでください」
彼はニッコリ笑って、ライレンを引き起こした。
ライレンはだんだんと、この店が異常な店であることを感じ始めた。
薄気味悪い外観。まだ昼なのに寝ている店員。
浮いている事務兼経理。何故か失神しそうになるハイタッチ。
「(この仕事・・・大丈夫なのか・・・?)」


店からの帰り道、ライレンはヴァイアの言葉を思い出していた。
―『あなたほどの罠解除、鍵開けの技能があれば、
  まったく問題はございません!
  是非お願い致します!』―
どこからそんなことがわかるのか、ヴァイアが言った。
「(あのハイタッチのせい・・・か?
  確かに妙な感覚があったけども・・・)」
―『今日の深夜0時にまた、霊洗堂にいらしてください。』― 
「(何故昼間にいかないのかわからないがそう言われ、
  一応宿で暇を潰しに来たけど・・・なんでだろーか・・・)」

ライレンは自分の部屋に入ると、
時計を見ると、3時をさしていた。
「いまのうちに寝とかなきゃ、仕事ができねーもんなぁ。」
そう、独り言をいうと彼は
古臭いベッドに横たわり、仮眠を取り始めた。



【5】

ライレンが仮眠から目覚めると、時計は11時半を指していた。
「ん・・・・そろそろか。」
彼はパンパンに膨らんだウエストポーチを着けると、
部屋を出て、夜の古都を歩いて行った。
主要な道は外灯があり、飲み屋などから笑い声などが聞こえ、
ある程度賑やかだが、
霊洗堂付近の路地は昼間よりもさらに暗がりを増し、
恐らく、暗い場所に慣れているものでないと、
歩くこともままならないような状況だった。
しかし、薄暗いダンジョンなどで、扉を探し、トラップに気を配り、
道を開くことが本職であるライレンには大した事はなかった。
「この路地を曲がると・・・」
霊洗堂の前に3つの人影が見えた。
一つは、浮いている長身の人影。
一つは、こっちの存在に気づいたのか、
大きく手を振っている小さな人影
一つは、人なのか判別し難いほど、
手を振っている人影の半分の背丈ほどの人影である。

ライレンが歩み寄って行くと、
手を振っていた人影が駆け寄ってきて、
「はじめまして!あなたがライレンさんね?
 霊洗堂オーナーのユウよ。 よろしくぅ!」
と元気良く言って、手を差し出し握手を求めてきたのは、
昼間カウンターでうつ伏せになって爆睡していた、
ユウだった。
「よ、よろしくッス
 (この子昼間はあんなに眠そうだったのに・・・
  もしかして・・・夜行性?
  ・・・てオーナー!?)
ライレンは彼女の昼間と夜の態度の違い、
また自分より年下のような少女が
不気味な店のオーナーということに戸惑いながらも握手をした。
「えーっと、あと、彼はガイ。
 とーーーっても頼りになる戦士よ」
ユウは彼女の背丈半分くらいの
古びた焦げ茶のフードをかぶった者を指して言った。
彼は紹介されると、甲冑でも着ているのだろうか、
カタっという音を出して、微かに頷いた。
全身にフードをかぶっているので顔どころか四肢すら見えない。
「よ、よろしくでっス・・・」
ライレンはこの小柄な男から強い威圧感を感じた。
只者ではない・・・そう思わせるようなものである。
「さて、では参りますか?地下墓地へ。」
浮いていた人影、ヴァイアが言った。
「え、地下墓地?」
ライレンが驚いて聞き返した。



【6】

シーフの主な補助の仕事は、未知のダンジョンで
財宝を探ったり、罠を避けたり、閉ざされた扉を開けることである。
しかし、地下墓地というのは・・・

古都西にあるブルン王朝以前の古代の王が眠っている
地下の空洞を利用した大きな墓地の通称である。
400年程前に【REDSTONE】に関する噂が流され、
都市に近い洞窟という洞窟、ダンジョンというダンジョンはしらみつぶしに
探索されつくされた。
そのとき、ブルン王宮のすぐ西にある、その地下墓地も例外ではなく、
すでに価値のあるものは全て探索隊に奪われ、
めぼしいものは一つも残っていないといわれているところである。
今は、その地下墓地の真上の地上に新しい墓地が出来て、
ただの現代の霊園という感じになっている。

普通の冒険者でさえ目もくれない過去のダンジョンへ
シーフを引き連れていくというのは、無意味なことだった。

「(今時、地下墓地で俺みたいなの引き連れて探検・・・・?
  ・・・なんで?)」
「どうかしたの?ライレンさん?」
ユウが不思議そうに首をかしげて言った。
「いや・・・なんでもないッス。」
「そか。んじゃぁれっつごー♪」
ユウは4人の先頭をうれしそうに歩いていった。
真夜中、墓地に向かって意気揚々と歩く少女・・・
それは明らかに『異様』なものだったが、
低空を浮遊し、気絶しそうなハイタッチを交わす
ヴァイアに会った後では、大して気にならなかった。
それに、この焦げ茶のフードをかぶった小柄の『ガイ』とかいう
とーーーっても頼りになるという戦士。(ユウ談)
この戦士が一番『異様』だった。
ライレンは戦闘力こそないものの、探知や解除の技能は、
同じくらいの経験を持つ戦闘も出来る万能シーフよりも優れている。
故に、この戦士から「只者ではない」という印象を受けた。
また、只者ではない理由もライレンは墓地に向かいながら
感じ始めていた。
「(人間じゃ・・・ない・・・!?)」



【7】

「はい、とーちゃくぅー♪」
ユウが楽しげに言った。
ライレンは六感でガイを探っていたので、
ユウの声を聞いて墓地の入り口にいる自分に気がついた。
「(あ、いつの間に・・・)」
「どーしたの?ライレンさん、ボーっとして・・・」
「あ、いや、なんでもないッス・・・
 ってそういや、俺は何をすればいいんスか?
 探知とか罠解除とか鍵開けとか・・・」
シーフの役割は戦闘を除いても多くのものがある、
それらをまず現地に行く前に話すものなのだが・・・
ライレンはまったくそういう類の話はされなかった。
だから、あらゆる状況に応じれるようウエストポーチに道具を詰め込み、
パンパンに膨らんでいたのである。
「あ、ごめんごめん。
 何も言わずに連れてきちゃったんだったね。
 えっと・・・まず・・・
 近くに人がいないか探知お願いできる?」
「あ、はい了解ッス。」
やはり、あの広告に書いてあった通り、
―○秘密が守れる方のみ―
の仕事なのであるとライレンは感じた。
しかし、シーフ家業をしている身としてはそんなことは日常茶飯事であり、
彼はあまり気にせず、回りの状況を探った。
流石に0時の古都郊外。人の気配は感じられなかった。
「・・・誰もいないみたいッス。」
「ありがとうライレンさん。
 よし、じゃぁ・・・ガイ、いいよ。」
「―左様か―」
どこからか声が聞こえた・・・ように思われた。
実際は耳ではなく頭に直接響く『声』だった。
ガイがフードを脱ぎ捨てた。
ライレンはガイを見て、息を呑んだ。
彼の骨のみの体があらわになったのである。










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